福岡地方裁判所小倉支部 昭和49年(カ)1号 決定 1975年9月01日
申立人 藤本好正
申立人 寉田力
主文
本件再審申立を却下する。
理由
申立人らは「債権者福地慶一、債務者兼所有者樫本誠二間の福岡地方裁判所小倉支部昭和四七年(ケ)第三一九号不動産競売事件の競落許可決定を取消す。本件競落を許可しない。」旨の裁判を求め、その理由としては、別紙一再審の事由記載のとおりである。
よって按ずるに、記録によると次の事実が認められる。
一、前記不動産競売事件において、申立人らは昭和四九年一一月一五日別紙二の目録記載の各物件につき最高価競買申出をなし、同月二二日同目録(一)(二)記載の物件につき一括金八三九万円、同(三)記載の物件につき金七三〇〇円、同(四)記載の物件につき金四五〇〇円(但し(三)、(四)の各物件は持分四五三分の一九)にて競落が許可され、同日競落許可決定は利害関係人最高価申出人共不出頭の上言渡された後同月二九日の経過と共に確定したこと。
二、前項競落物件は別紙二の目録記載の各物件として競売申立及び公告されたものであるが、現地における範囲が必ずしも明確でないため、競売手続の過程において、鑑定人は債権者である競売申立人の指示を受けた土地家屋調査士川野一徳作成に係る実測図面に従って物件を認識して之を実測した(別紙二目録(一)(二)記載の土地の実測として一七九九・一六m2としている)上最低競売価格を評価し、右評価額に基いて競売手続が続行され、申立人らの競落に至ったこと。
三、一方競落物件については所有者樫本誠二と隣地所有者寺本清右ヱ門なる者との間において土地境界の争いがあり、昭和四七年三月一三日以降小倉簡易裁判所に原告寺本、被告樫本の土地所有権確認等請求訴訟が昭和四七年(ハ)第一六七号事件として現に係属中であり、右訴訟において寺本がその所有物として主張する土地の範囲は前項鑑定人において競売物件として実測した土地の大部分を覆う関係にある。
しかして右訴訟の存在は昭和四九年九月二六日被告樫本から競売裁判所に対し訴状添付の上上申書をもって届出があり、該上申書は競売記録に編綴され、申立人らも競買申出前之を閲読したこと。
四、また競落物件の所有者である樫本誠二は隣地所有者寺本清右ヱ門から前項訴訟提起前立入禁止の仮処分を受けていたが(尤もこのことは申立人ら競買申出当時競売記録上明らかではない)、申立人らも競落許可決定確定後の昭和四九年一二月二日同様寺本から競落物件につき前第二項寺本主張の所有土地部分の占有移転、立入等禁止の仮処分決定を受けたゝめ、競売公告に係る公簿面積或は鑑定評価に際しての実測面積どおりの所有権取得に深く危懼の念を抱くに至り、本件再審申立に及んだこと。
そこで右認定の事実に基いて本件再審の申立を検討するに、本件再審の申立は民事訴訟法第四二〇条第一項第九号の再審事由に基くものであるが、同法第四二九条、第四二〇条第一項第九号にいう裁判に影響を及ぼすべき重要な事項につき判断を遺脱したときとは、当事者が主張し又は裁判所の職権調査を促して判断を求めた事項で、その判断の如何により裁判の結果に影響を及ぼすべきものにつき、裁判所が判断を遺脱したときを指すものと解すべきであって、仮令職権調査事項でその判断が裁判の結果に影響を及ぼすべきものであっても、当事者が之を主張せず、裁判所も之に触れなかったようなものは、これに該当しない(大審院昭和七年(オ)第四一号、同年五月二〇日第五民事部判決)というべきところ、競売裁判所が申立人らの競買申出に応じて競落許可決定を言渡すに当り競落許否について申立人らはもとより利害関係人らから何らの主張申立等がなかったことは前認定の事実から明らかであるから、右許可決定に再審事由たる判断遺脱の瑕疵ありとして之を論難することは許されないところであって、本件再審申立は既にこの点において失当であり却下を免れないが、申立人らは競落許可決定における競売手続上の瑕疵の存在を縷々強調するので、右の点は扠置き、許可決定の瑕疵の有無について更に寸言するに、競売法による競売手続にあっては、競売物件の特定は競売申立書の記載により、右記載により範囲等特定しがたいときは競売申立人の指示に従って之を認識特定して公告、鑑定評価した上最低競売価額を定めて手続を進行すれば足るのであって、競売申立人の指示する物件及びその範囲につき第三者から之と異る権利主張があってもそれを顧慮する必要はないのである。けだし、競売申立人の指示する物件及びその範囲につき、之と異る権利内容を主張するものは別訴において之を争うか或は競売開始決定に対する異議を申立てることにより自己の権利を擁護しうるし、また、競買申出人は競売申立人の指示する物件範囲と異る権利主張の内容真偽を競売記録と実地について調査し、その責任において競買申出をなすべき筋合であり、競買申出後に競落物件の権利の瑕疵を確定的に発見したときは、その発見の時期に応じて競落許可についての異議、競売開始決定に対する異議、更には債務者に対し民法第五六八条、第五六五条による契約解除又は代金減額を請求しその担保責任を追及すべき途が拓かれているのであって、その利益保護に欠けるところはないからである。本件においては、前認定のとおり、競落物件の隣地所有者である寺本清右ヱ門が債務者樫本誠二を相手どって提起した土地所有権確認等の訴訟は現に小倉簡易裁判所に係属中であって、未だ競売申立人の指示に従い公告評価された競落物件につき権利の瑕疵が確定的に発見された場合とは到底いえない段階であり、競落許可決定言渡当時も事情は全く異らないのである。
成程競落許可決定云渡当時前記小倉簡裁係属訴訟事件の外に寺本から樫本に対する立入禁止等仮処分が存在していたに拘らず競売記録上之が明らかにされてないことは前認定のとおりであるが、かゝる仮処分の存在のごときは、その本案をなす右訴訟事件の存在同様、単に隣地所有者の権利主張の存在を意味するだけのものであるのみならず、樫本から提出された右訴訟事件の訴状添付の上申書から容易に推察できるところであって、競売裁判所が競落許否を決するに当り特別に顧慮すべき事柄ではない。
また、競落許可決定の基礎となった鑑定評価が競売申立人指示の物件範囲の外に之と異る権利主張を前提とした物件範囲についてなされていないとしても、該評価が競売申立人の指示に従って特定された物件範囲につき適式になされた本件にあっては、之をもって競落不許の事由とすることは相当でない(当該鑑定は別紙二目録(一)(二)記載の物件については一括して之を実測した上で価額を評価しているが、物件評価は本来公簿より実測に従ってなされるほうがより好ましいといえる。)。
外に記録を精査するも公告から競落までの競落手続の進行及び競落許可決定につき競売裁判所の措置になんらの瑕疵も発見することはできない。
してみれば申立人らの本件再審申立は所詮理由なきものとして之を却下すべく、主文のとおり決定する。
(裁判官 鍋山健)
<以下省略>